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コンピュータの活用とこれからの学校教育

 Computers and School Education for the Future

 
1.はじめに

1-1.はじめに
 今日、われわれ人間とコンピュータが関わる機会は非常に多い。子供を教え育てるという社会的役割を持つ学校では、人間とコンピュータはどのように関わっているのだろうか、またこれからどのように関わっていくべきなのだろうか。
 この論文では、文献研究を通して、学校教育にコンピュータが導入された経緯、現在のコンピュータ利用の型、コンピュータが人間に与える悪影響、学校が抱える問題点とその社会的背景、新しい教育とコンピュータ利用という五つの側面から、この問題に接近した。

1-2.エキスパンド・ブック
本研究では、「エキスパンドブック」という電子ブック作成のためのソフトウェアを用い、研究の成果をコンピュータ上に表現した。電子ブックでは、表紙や目次をはじめ、必要なページだけを読む、といった従来の紙の本が持つ機能に加えて、注釈に動画、静止画、音声等による素材を使用することができる。
 参考文献などより、7枚の新聞記事、15枚のイラストや写真、2つのビデオクリップ、16の脚注を組み込み、電子ブック版の卒論をあわせて試作した(図1)。

(図1)「エキスパンドブック」の注釈表示画面

2.各章の要旨

第1章 コンピュータ導入の経緯
 文部省がパソコン等の導入のために20億円の補助金制度を新設し、同時にコンピュ−タ教育の指針も打ち出し、研修体制の強化を計った1985年は、コンピュータ教育元年となった。この前年の1984年には、コンピュータ教育元年の準備の年としての動きが見られた。また、翌1986年には、コンピュータ教育開発センターが発足したり、教育課程審議会がコンピュータ教育導入の具体的な方向性を定めた等、情報化社会へ対応としようとする動きが見られた。
 一連の動きのなかで、最も積極的だったのは通産省である。しかし、文部省、臨時教育審議会、通産省をはじめとする様々な公的機関の動きとそれを受けた産業界を始めとする社会の動向といった要素が複雑にからまりあい、影響を与えあい教育へのコンピュータ導入を推し進めていった。

第2章 学校教育でのコンピュータ利用
 学校でのコンピュータ利用は、コンピュータで事務管理をすることと、教室でコンピュータを使うことの二つに大別される。教室でのコンピュータ利用の一つとして、コンピュータの仕組みや操作法、利用法を学ぶというコンピュータそのものが学習の目的になるものがある。
 教室でのもう一つの利用には、コンピュータを使って教えるCAIがある。「人間どうしの相互作用による教育を実現するのにコンピュータが有効か」という課題を掲げ進められた竹園東小学校での実践研究は、CAI研究の先駆けの一つとして教育現場でのコンピュータの在り方を考える上で貴重なものとなり、その後の研究にも大きな影響を与えていった。

第3章 心身へのコンピュータの悪影響と教育
 学校教育にコンピュータを導入する場合、コンピュータのマイナス面をよく理解した上で導入しないと、子供に身体的心理的にマイナスの影響を与える恐れがある。労働の現場では、VDT障害といわれる身体へのコンピュータの悪影響や、コンピュータによる心理的な負担(テクノストレス)があることが明らかにされている。
 子供たちにも、コンピュ−タとの会話に慣れ、人間との会話が困難になってしまうというものや、コンピュ−タの操作と人間との付き合い方との違いが分からないというものがおり、テクノストレスが見られるとの報告も軽視できない。また、コンピュータ教育実践校の健康問題への配慮の不十分さを指摘し、コンピュータがもたらす心身への影響を心配している意見もある。
 コンピュータ導入の際には、コンピュータのマイナス面、プラス面を含めた本質を十分に研究し、理解し、検討した上で導入を進めていくことが大切である。

第4章 学校教育の問題と社会の要請
 教育には、人間として心が通い合い、人間的な心の触れ合いがある教育的人間関係が欠かせない。しかし、実際の学校場面でこのような関係が保たれていると言えるのだろうか。
 次から次へと多種多様な知識を注入され、決められたスケジュ−ルをこなしていくといった事務的で無味乾燥な授業や、いつも教室に閉じ込められ、教科書の内容を黒板を使って説明していくといった単調で定型的な授業を、現在の学校教育の問題として指摘する研究者も少なくない。
 学校が知識伝達機関としての働きを重視するようになったのは、産業革命に起因すると考えられている。知識詰め込み型の学校は、産業革命によってもたらされた工業化社会の中にあって、存在する意味があった。脱工業化社会的性格をもち情報が中心となる現代社会、それは多くの人が唱えるところの情報化社会である。現在、明らかに産業革命時代とは違う社会になり、学校教育がその変化に応えられていないかもしれない。
 コンピュータを入れればそれでこれらの問題がすべて解決するという訳ではない。コンピュータの導入の仕方を考えることを含め、学校全体を見直すきっかけとする必要があると思われる。

第5章 新しい教育の形とコンピュータ
 現代の社会が求めている学校教育に変わるためには、学校教育そのものを根本的に変革する必要がある。急に変革することは不可能であるが、まず、今の学校が抱える無味乾燥な授業や教師から子供への一方的な知識伝達の重視、といったような問題をコンピュータ教材を利用して少しでも解決しようとする教師の試みがある。また、個性重視の教育のために、「より賢いCAIへ」、「より面白いCAIへ」という二つの方向で新しいCAIが研究されている。
 学校教育を根本から変革し、現代社会の要請に応じるためには、子供が中心の、子供が主役の学校にする必要がある。子供中心の学校教育にするために、学習の手段・道具としてのコンピュータ利用が模索されている。例えば、苅宿俊文は、コンピュータを教師と子供の仲立ち、あるいは子供たちの学びを広げていくツール(道具)としての「学びの窓」と位置づけ、子供中心の授業実践を行っている。
 子供が自分で興味を持ち、自分で調べ、自分で発見し考え、自分のものにしていく。その時コンピュータは、辞典となり、データの記録・処理の道具となり、子供たちが表現したい文字、図表、写真、ビデオ映像、音を一つにまとめて表す手段となる。教師は主体的な子供の活動を子供の横で援助していく。このような教育は、現代社会の要請に応えた教育であるといえよう。

3.おわりに
 教員研修の実施の必要やコンピュータそのものの導入費用等、ヒトとカネの問題が、今後学校教育のコンピュータにとって大きな問題となる。
 しかし、これからの新しい学校教育の実現のためにはコンピュータが有効である。自分で「学んだ」経験を持つ子供は、個性的で責任感が強く、人とは違うという自覚を持ちながらも、他の人と協調していく姿勢を身に付ける。子供たちの学習活動にコンピュータの良さを活かす方法をさらに追及していく意味は大きいと思われる。そのためにも人材と費用を確保していかなければならないだろう。
 ただし、ヒトとカネの問題だけを解決すればいいという訳ではない。コンピュータの良さをどのように利用していけば学校教育に有効であるのかを同時に考える必要があるだろう。子供を中心とした教育の実現のために、コンピュータの果たす役割がさらに注目されることを望む。

主要参考文献
 教育コンピュータ研究会編著(1988)『コンピュータの中の子供たち』 現代書館
 中山和彦(1986)『マイコンクラスルーム未来の教室CAI教育への挑戦』 筑波出版会
 ブロード,C.(1984)『テクノストレス』 新潮社
 岸田元美(1987)『教師と子どもの人間関係』 教育開発研究所
 苅宿俊文(1993)『コンピュータで子供のやる気を育てる』 講談社


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