9151118 逢坂 素子

就職試験を突破するための CAI政治経済教材の開発と評価

Development and Evalution of Courseware on Politics and Economy
for Employment Examination

 
1.はじめに

1-1.研究の背景
 学習の事前に苦手な分野、不得意な分野や箇所がわかっていれば学習は効率的に進む。そのためには診断的評価を用いる方法がある。そこで本研究課題である「就職試験を突破するための政治経済教材」は、学習前に診断テストを行ない、不得意な分野を学習者が把握できるようにした。また、用語の丸暗記(用語だけを覚えること)を防いで、意味まで理解することができ、就職に対して意識がもてることを目的とした。
 より質の高い教材を作成するためには、形成的評価が欠かせない。教材が完成する前に、実験的に教材を使用してもらって、学習者から寄せられたデータを教材改善のために役立てていくのである。そこで、教材の第一段階としてαバージョンを開発して、形成的評価を行ない、被験者からデータを収集した。そして、そのデータをβバージョン開発のときに改善する材料とした。

1-2.研究の課題
 この研究の目的は、形成的評価の過程を経て開発したCAI教材の効果を調べることであった。具体的には、CAI教材で学習したことによって政治経済の重要事項を覚えられたかどうか調べるために、学習前と学習後に診断テストを行ない、それらの成績を比較した。教材の中には、各分野ごとに用語の解説の画面、三択練習問題、穴埋め練習問題、の3つの形態があり、学習者は好きなように使用できるが、どの分野のどのような形態の情報を学習していたかに着目した。また、事前、事後アンケートを行なって就職に対する意識がどう変わったか調査した。

1-3.研究仮説
1)学習前の診断テストより学習後の診断テストのほうが合格した分野が多くなる。
2)事前アンケートより事後アンケートのほうが就職にたいして意識するようになり、事後アンケートで就職試験に役立つと思うことができる。
3)練習問題と解説をたくさん使用した人のほうが学習後の診断テストの合格分野数が多くなる。
4)学習時間を多くかけた人のほうが学習後の診断テストで合格分野数が多くなる。

2.研究の方法

2-1.実験参加者
 1月9日から1月11日の間、本学学生に協力を求め、同意してくれた22人が被験者となった。事前アンケートで自分で学習したい範囲を「政治」と「経済・社会」のいずれかから選ばせた。11人が「政治」を、11人が「経済・社会」を学習した。被験者の学年の内訳は「政治」「経済・社会」合わせて、1年生と4年生が各32%、2年生と3年生が18%ずつだった。

2-2.研究に用いたCAI教材
 就職用一般常識の問題集から政治・経済を取り出して、その中の用語や用語の意味を覚えてもらうためのCAI教材を作成した。「政治」、「経済」、「国際社会」、「社会問題」の4つから成り立っており、さらに「政治」に7つ、「経済」に5つ、「国際社会」に2つの分野(合計15分野)があった。診断テストは、「政治」(7分野)と経済・国際社会・社会問題をあわせた「経済・社会」(8分野)の2つに分かれていて、学習者には事前アンケートで選んだ方を選択させた。
 学習前の診断テストで分野ごとに合否の判定を下すので、学習者は自分の弱い分野を知ったうえで学習に移ることができる。学習の形態には、用語の解説、分野ごとの三択練習問題、用語ごとの穴埋め練習問題(穴埋め問題作成支援ツール「虎の穴」を使用;高橋、1995)の3つの形態があり、学習者は自由に選択できるようになっていた。教材の学習目標は様々な学習方法を用いて、学習後の診断テストで学習前の診断テストよりも合格分野を増やすことであった。

2-3.測定方法
1)事前アンケート(プリント) 
 就職に対する意識、高校時代の選択科目、政治経済に対する意識など9項目からなり、はい、いいえでたずねるもの、5項目から選択するもの、自由回答でたずねるものにわかれていた。
2)事後アンケート(プリント)
   CAI教材の中身(内容、画面、練習問題の学習の方法)や就職に対する意識の変化などをたずねる項目にわかれていた。
3)学習記録
 就職試験を突破するための政治経済教材の診断テストに費やした時間、解説画面を何枚見たか、三択練習問題をいくつ練習したか、穴埋め練習問題を何問解いたか、学習時間の所要時間は使用したコンピュータからデータをとった。
 実験開始時に名前を入力させることで、学習前後の診断テストと照合して、データを分析した。

2-4.研究の手順
実験者立ち会いのもと、被験者に次のような手順で協力してもらった。
1)事前アンケート(プリント)の配布と回収
2)教材の進め方(まず実力診断、学習、最後に実力診断の順に行なうこと)の説明
3)事後アンケート(プリント)の配布と回収

3.研究の結果
 診断テストの合格分野数は、「政治」の1人(学習前後の診断テストとも合格分野数4)を除いて、全員学習前より学習後の方が多かった。合格分野数の平均は学習前の診断テストでは「政治」1.4分野、「経済・社会」3.2分野であったのに対し、学習後の診断テストでは「政治」5.1分野、「経済・社会」6.6分野に上昇した。
 この教材の感想を聞いた事後アンケートでは22人中18人が就職試験に役に立つと答えた。就職に対する意識は、22人中13人が強くなった、9人が変わらないと答えた。また、事前アンケートで就職について意識していると答えた18人中12人が強くなった、意識していないと答えた4人中3人が意識は変わらないと答えた。
 学習後の診断テストの合格分野数と教材使用量との関係は、「政治」ではつぎのような傾向がみられた。三択練習問題を7分野すべて練習していた6人は学習後の診断テストで5分野以上合格していが、三択練習問題の練習分野数が5分野以下だった人は、合格分野数が最低の4分野だった。
 一方、「経済・社会」では学習後の診断テストの合格分野数と教材使用量との間には明らかな相関はみられなかった。しかし、学習前・後の合格分野数の差(上昇分野数)と三択練習問題使用数との関係には有意な相関がみられた(r=0.825, p<0.05)。
 学習時間の平均は「政治」51分(SD=18.9)、「経済・社会」41分(SD=25.7)であった。最大・最小値は「政治」87・27分「経済・社会」92・19分であった。学習時間と学習後の診断テストの合格分野の間には明らかな傾向がみられなかった。しかし、上昇分野数と学習時間との関係には「経済・社会」では有意な相関がみられ(r=0.679, p<0.05)、「政治」でも同様の傾向が示唆された(r=0.548,p=0.08)。

4.考察
 仮説1、2は支持された。このことはこの教材が学習効果があり、就職試験にも役に立つものであることを示している。仮説3、4については部分的にしか支持されなかった。しかし、仮説3、4について上昇分野数と教材使用量や学習時間との関係を調べてみたところ、有意な相関関係がみられた。
 この研究で用いた診断的評価は学習者の事後アンケートでも高い評価を得ることができた。ほとんどの人が不合格であると判断された分野を中心に学習し、学習後の診断テストで合格分野を増やしている。学習前の合格分野数が参加者間でばらついていたことからも、仮説3、4においては学習後の合格分野数ではなく、前後の差(上昇分野数)についてのデータをもとに今後の研究を進めることが適切であると思われる。
 事後アンケートでは、合格・不合格のラインを知りたいという意見もみられた。合格・不合格ラインを学習者に教えたり、学習者が自分で合格不合格ラインも設定できるような機能の効果を調べていくことも今後の研究の課題である。また、用語ごとに中学の公民、高等学校の政治経済で扱っているかどうかを示したが、分析は行なわなかった。問題の中身についても、就職試験に実際に出題された問題を厳選して出題するなどの工夫も考えられる。これらも今後の研究の課題になるであろう。

参考文献
高橋学(1995)「穴埋め問題作成支援ツール『虎の穴』によるドリル型CAIの研究」東北学院大学教養学部総合研究論文

図1.診断テストの結果表示画面


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