目標点設定機能付き政治経済CAI教材の開発と評価

Development and Evaluation of CAI Courseware on Politics and Economy

with Assignable Target Marks

9351170 藤田 成一

鈴木克明先生指導

1.研究の背景

 学習する以前にテストの合格・不合格ラインを知っていれば、学習は効率的に進む。特にテスト以前に学習者が合格・不合格ラインを知らない場合、テスト後に学習者は合格・不合格ラインを知りたいと感じる(逢坂、1995)。

 個人を数多くのデータで表現するときに使われる方法としてレーダーチャートがある(西之園、1987、p177)。レーダーチャートの場合、個々の変量の値を比較的忠実に表現できるという点で便利である。

 コンピュータを使用した教材をCAI(Computer-Assisted Instruction)教材と呼ぶ。CAI教材の場合、学習者は先生に直接教わらなくても、自分の苦手な分野を自分の好きなときに、自分のペースで独学できる。

 本研究課題では学習者にテストの合格・不合格ラインを知らせるためのレーダーチャートが表示される政治経済CAI教材を開発し、その評価を目的とした。

 

2.CAI教材の設計と開発

(1)教材の内容の選択と分類

 高等学校の政治・経済の教科書及び教科書準拠の問題集から重要語句・頻出語句を取り出し、その意味を覚えてもらうためのCAI教材を作成した。

 分野は「政治」、「経済」、「国際社会」、「社会問題」の4分野から成り立っており、さらに「政治」に7つ、「経済」に6つ、「国際社会」に2つ、「社会問題」に2つの章立て(合計17章)をした。

(2)教材の全体構成

 本研究課題はまず学習前に全4分野の診断テストを行なってもらい、各分野の得点を参考にして一分野を選択し、その分野の各章に学習者が目標点を設定し、解説画面に進んで内容を理解し、最終テストを受けてもらう、という流れで教材は進行していくようにした。なお解説画面では、語句の解説とその内容を確かめる三択練習問題を用意したので、学習者は語句の内容を一つ一つ確認しながら学習を進めることができる。

(3)診断テストと最終テスト

 診断テストと最終テストは同じ問題を用意した。分野別に見ると、「政治」が56問、「経済」が44問、「国際社会」が20問、「社会問題」が18問(計138問)であった。いずれの問題も三択形式で、出題順および選択肢の順番は毎回ランダムにした。

(4)レーダーチャート

 診断テスト終了後に表示されるレーダーチャートではまず4分野それぞれにおける正解率(解答数÷問題数×100)をそのまま点数として各軸上にとって線で結んだ。その後学習者はどれか一つの分野を選択することになるが、その場合は各自の診断テストの結果と目標点を各軸上にプロットできるようにした。最終テスト後の画面では最終テストの結果と同時に診断テストの結果及び各自が設定した目標点を同時に一つの画面内でレーダーチャート上に表示し、学習者に一目でテスト結果が分かるようにした(図1参照)。

(5)教材の開発

 本研究課題で用いたCAI教材はMacintoshのHyperCard上でHyper Talkによって開発された。

3.CAI教材の評価実験

 本研究の目的は、テスト結果及び目標点をレーダーチャートを用いて視覚的に表示することにより学習効果が高まるかどうかを調べることであった。

 本研究ではテスト問題や解説画面は同じものを用いたが、レーダーチャート及び目標点設定機能があるCAI教材を使用した者を実験群、レーダーチャートも目標点設定機能もない教材を使用した者を統制群として、以下の三つの研究仮説を立てた。

@学習前よりも学習後のほうがテストの点数が高くなる。

A実験群のほうが統制群よりも、診断テストと比べて、最終テストにおける成績の伸びが大きい。

B実験群のほうが統制群よりも、目標を意識する度 合が大きい。

4.評価実験の方法

(1)被験者

 協力を求め、同意してくれた本学学生24人が被験者となった。

(2)材料

@事前アンケート(プリント)

 大学での履修科目、高校時代の選択科目、コンピュータの操作経験など5項目からなり、YES、NOでたずねるものと6項目から選択するものに分かれていた。主に学習者の属性を調査するために用いた。

A事後アンケート(プリント)

 CAI教材の使いやすさ(内容、画面)やテスト結果についての感想などをたずねる項目に分かれていて、全て4件法を用いた。

5.評価実験の結果と考察

(1)記述的統計

 診断テストと最終テストの平均をそれぞれ比較した。実験群および統制群を合わせると、診断テストの平均は5.94問(SD=1.295)であったのに対し、最終テストの平均は7.01 問(SD=1.479)であった(図2参照)。

 この教材の感想を聞いた事後アンケートでは、実験群全員がレーダーチャートによる得点の表示に対して「よい」もしくは「とてもよい」と答えた。また統制群12人中11人がレーダーチャートにより学習が効果的に進むと感じていた。目標を学習者自身が設定できる機能に対して、実験群12人中2人が目標をとても意識して学習に取り組むことができたと答えた。

(2)研究仮説の検証

 仮説@は t 検定から支持されたといえる(t(13)=-2.52、p<0.05;図2参照)。仮説Aは支持されなかった。実験群と統制群の「成績の伸び」(最終テストの得点-診断テストの得点 )の間には有意な差は見られなかった。仮説Bはアンケートから部分的にしか支持されなかった。しかしレーダーチャートによる得点の表示に対しては好意的な感想を得ることができた。

 

6.おわりに

 今回の研究では、小標本であること、出題数が少ないこと、テストが三択式であること、という点から実験群と統制群との間に明確な差が生じなかった。今後の課題として、被験者の確保、問題形式の改良などが考えられる。

 今回の研究で用いたレーダーチャートによる得点の表示は学習者の事後アンケートからも高い評価を得ることができた。このことからレーダーチャートなどの視覚的な表示方法によって自分の実力を知りたいという要望を学習者は持っていると言える。

 事後アンケートの感想からは今後の課題も残された。操作面においては画面移動の操作のしにくさを学習者に指摘された。画面においてはその単調さを指摘された。これらの点は実験と評価を繰り返すことで解決されると思われる。内容面においてはただ単にテストを行なうだけではなく、その学習者の不得意としている分野を中心に学習できるようにし、分野や項目に対して完全に理解できるように教材を改良することが考えられる。そのためにはコンピュータの特質であるデータの記録保存機能を充実させ、教材使用時に、学習者の過去の記録を参考として教材の進行を設定できるように工夫することが必要になるであろう。

参考文献

逢坂素子(1995)「就職試験を突破するためのCAI政治経済教材の開発と評価」『東北学院大学教養学部総合研究論文』

西之園晴夫(1986)『コンピュータによる授業設計と評価』 東京書籍


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