教育ディベートにおける論題の調査研究

〜データベース「教育ディベート論題集」の作成を通して〜

A survey of educational debate propositions

〜by making a data base ”EDP Sampler”〜                9351126  興野 菜穂子

鈴木克明先生指導

1.研究の背景

 ディベートとは、一言でいうと「議論のスポーツ」「討論試合」である。特定のテーマを決め、肯定と否定に分かれて、一定のルールに基づいて、議論しあう。そして最後に、説得力で勝った側を判定するというものである。その歴史は大変古く、起源は今からおよそ3000年前のギリシャにさかのぼるが、近年アメリカを中心に盛んに行われている。日本においては、1990年前後から急速に企業、学校などにおいて注目されるようになった。

 ディベートにおいて討論するテーマを「論題」という。例えば「脳死を人の死とすべし」というものである。テーマである論題の良否によってディベートの成否が決まるといっても過言ではない。このようにディベートのキイとなる論題には、事実論題、価値論題、政策論題の3種類がある。また、どんなテーマもディベートの論題となるのではない。話題性がある、 議論の余地がある、中心課題が1つであるなどという条件を満たすことが求められる。

 ディベートは企業等の研修でも行われているが、教育現場から大変熱い注目をあびている。1991年以降、ディベートに関する本が続々と出版され、ついには教科書にも登場するようになった。このように教育現場から高い関心を寄せられている理由は、ディベートが教師主導、暗記志向型の一斉授業の現状を打開する一つの方法であると考えられているからである。

 その取り組みは小学校から大学生まで様々であるが国語科と社会科、そして学級活動においての実践が圧倒的に多い。国語科においては「話し合いのルールを身につける」ことが、社会科においては「社会的認識力を深める」ことがねらいとされている。つまり国語科ではディベート「を」学習し、社会科ではディベート「で」学習するのである(佐藤ら、 1994)。 

 本研究の目的は、ディベートの鍵をにぎる論題について、社会科における現状と問題点をデータベース作成を通してあきらかにすることにあった。

2.研究の方法

 教育ディベートに関する書籍20冊、雑誌321冊の計341冊を調査対象とし「中学・高校の社会科の授業、あるいは学級活動で使用可能な論題」を選択した。書籍は「教室ディベートの新時代シリーズ」などを、雑誌は教育ディベートの試みがはじめて「討論」の特集として『社会科教育』にとりあげられられた1989年4月号から1997年1月号までの『現代教育科学』『社会科教育』『国語科教育』などを調査した。 

 調査対象の範囲が広いため、データベースを作成して、調査を行った。その作成はクラリスワークス2.0を使用した。

 作成した項目は「番号」「論題」「論題の種類」「教科」「分野」「論題設定の理由」「実践」「実践例」「アフターディベート」「位置づけ1」「位置づけ2」「入門期」「著者1」「著者2」「出典1」「出典2」「コメント1」「コメント2」「問題」の計19項目であった。データベースのサンプルを図1に示す。

    

図1 データベースのサンプル図1 データベースのサンプル

3.研究の結果と考察

 調査の結果、395個の論題が集まった。これらの論題の内訳は社会科に関するものが277個、学級活動に関するものが118個であった。

(1)分野について

 社会科論題の分野別構成は、地理的分野71個、歴史的分野58個、公民的分野200個であった。これを図2に示す。論題は圧倒的に公民的分野に多いことがわかった。また、地理と公民、公民と歴史の両方でおこなわれているものがみられた。

(2)分野別の内容分布 

 地理的分野では環境問題に関する論題が多くみられた。また、首都機能、北方領土など公民的分野でも実践されている論題もみられた。

 歴史的分野は、現代に近づくにつれて論題が多く分布している。また歴史的分野ではその性格上争点があるものは限られているため、鎖国など特定の分野に論題が集中している。

 公民的分野は内容が多岐にわたっていた。そのなかでも環境に関するもの、司法制度に関するものが多く見られた。 

(3)論題の種類 について

 社会科論題における論題の種類の内訳は、事実論題36個、価値論題71個、政策論題170個であった。圧倒的に政策論題が多い。さらに分野毎の種類の内訳は、地理・公民的分野では政策論題の占める割合が大きいことに対し、歴史的分野では、価値論題が多かった。教科の性格を反映しているといえよう。

(4)論題設定の理由について

 「何を目的としてこの論題でディベートを行うのか」という論題設定の理由は明確に示されなければならない。約半数の論題はなんらかの理由が示されていたが、そのうち明確に示されていたものは全体の38%であった。

(5)実践記録について

 論題について実践が明記されていた論題は全体の31%であり、残りは提案にとどまっていた。また、教育におけるディベートは試合をして終わりではなく、試合後に「レポートを書く、パネルディスカッション」などでまとめすることも大切である。これを「アフターディベート」という。問題に対する認識をさらに深め、また判定で勝った側が正しいと思い込んでしまうことを防ぐためにとても有効なものであるが、その実践が明記されているものはわずか全体の6%であった。

(6)定番的論題

 一つの論題に対して複数の実践記録があるもの、いわばディベートの定番的論題は「夫婦別姓」「首都機能」「死刑廃止」「安保条約」「憲法第9条」「北方領土」「鎖国」に関する論題などであった。 

 

4.論題集作成でみえてきたこと 

 まず第一に確実にディベートが教育界に広がってきたことである。年々実践報告が増え、活発に批評が行われている。たくさんの実践が報告されており喜ばしいことではあるが、いくつかの問題点がみうけられた。まず、「 なぜこのディベートを行うのか」ということをはっきりさせていないものが多いことである。また「アフターディベート」が明記されているものが大変少ないということである。教育界におけるディベートでは、勝敗よりも生徒たちの社会的見方、考え方がどのように変化したか、深まったかということが大事なのである。PLAN-DO-SEEのサイクルのなかでしっかりと位置付けられた実践をするべきである。

 教育ディベートはさまざまな批判をうけているが、これまで何かと批判されてきた「教師主導の授業」ではなく、「生徒主体の授業」として画期的なものであり、たいへん意義があると思われる。 

 今後の研究課題としては、作成したデータベースを使いやすいように改良するということである。本研究では他人が使うということを考慮していない。だが、ディベートに関心を持つ教師が増えてきている今、過去の論題が一覧となっているこのデータベースは有用なものになるのではないだろうか。よって今後はデータベースの使いやすさを追求していきたい。 

<主要参考文献>

佐藤喜久雄・田中美也子・尾崎俊明(1994)『中学・高校教師のための教室ディベート入門』創拓社

『現代教育科学』『教育科学 社会科教育』『教育科学 国語科教育』1989年1月号〜1997年1月号 明治図書


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