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中学校理科第一分野CAI教材「気体の発生」の開発
〜シミュレーションの特性を活かして〜

Development of CAI Courseware "Gas Generation" for Junior High School Science:
Making the Best Use of Simulation


メインテーマ:学びを支援するツールとしてのマルチメディア

指導教員:鈴木克明先生

教養学部 人間科学専攻
9551164 二瓶 彩子
9551173 福原 可奈




1 研究の背景

1-1 本教材開発の動機


 「中学校指導書理科編」(文部省, 1989)によると、「理科学習の最終のねらいは自然についての興味、関心を高めることである(p.11)」と述べられている。しかし、実際の授業では時間が限られており、しかも一人の先生が大勢の生徒に教えるわけだから、学習のねらいを満たすにも限界があると考えられる。安全面、設備面などの問題からもなかなか自学自習するのは難しい。

 そこで、一人でも手軽に実験を疑似体験することができれば、上述の問題の解決につながると考えた。また、学習者の興味・関心を高めるために、自由に条件設定や意志決定をすることができるというシミュレーションのメリットを活かすことができる のではないかと考えた。


1-2 本研究の目的

 本研究では、一人でも手軽に学ぶことができ、理科に対する興味・関心が高まるようなシミュレーション教材の開発を目的とした。

 教材で扱う分野は、中学校理科第一分野「身の回りの物質とその変化」の「気体の発生」とした。酸素、二酸化炭素、水素、アンモニアを用い、性質や発生法、捕集法などを学習することによって、気体の特性を理解させることを目的とした。その際に、異なった条件でも対応できる力が身に付くように、シミュレーションの特性を活かした内容にした。



2 シミュレーション


 シミュレーションとは、現実の物理現象をモデル化し、コンピュータで計算しながら模擬するものである。坂元(1987)によると、「シミュレーションとは、教育目的のためにコンピュータ上に現実の断片を作業モデル化して映しだしたものである」とある。要するに、コンピュータで模擬体験をすることである。

 シミュレーションによって、学習者は、教室のなかで行うには費用がかかりすぎたり、時間がかかりすぎたり、危険すぎたり、簡単には実施できないほど複雑であるような事柄を、疑似体験することができる。また、学習者には、現実の実験を観察するよりもコンピュータシミュレーションのほうがメリットがある場合もある。というのは、学習者自身が実験条件や実験変数を変えながら実験に参加できるからである。学習者は、条件設定と意志決定をすることができて、コンピュータはその結果や関連事項を示すことになる。実験変数は安全にかつ無料でいくらでも変えることができる。


3 設計


3-1 教材の全体構成と特徴

 教材で使用する薬品は、中学校教科書・資料集から抜粋した(液体5種類、個体10種類)。これらの反応結果については、高等学校の化学の先生にご指導をいただき、さらに、出身高校の実験室を借りて実際にいくつかの実験を行った。

 教材の全体構成を図1に示す。導入部分の「やり かた」では実験の流れを示すと同時に学習目標(4種類の異なる気体を発生させよう)を提示する。メインとなるのは「理科室」(図2)で、ここで気体の発生をシミュレーションする。「器具庫」をクリックすると画面に器具が表示される。その中から好きなものを選んで実験台に運び組み立てる。「くすり」ボタンは薬品名のみを表示するが、その中から液体の薬品を選択するとスポイトの絵、個体の薬品を選択するとスプーンの絵が現われる。それを実験装置に運び重ねると音によって実験装置に入ったことが認識できる。選択された薬品名は画面下に表示され、学習者がどの薬品を使用したか確認できるようになっている。「点火」ボタンをクリックするとガスバーナーは点火する。

 組み立てが完了すると「確認」に進むことができる。確認ツール(線香、石灰水、リトマス紙)を用いてどんな気体が発生したかを確認し、何が発生したのか(または何も発生しなかったか)5択で答える。選んだ答えが当たっていれば、その気体についての豆知識を表示する。はずれの場合はもう一度確認し直すことができる。 確認方法の説明として確認ツールのヒント画面もある。

  気体を発生させた行程は「ノート」に記録できる。気体の性質について学習できたかどうかは「確認テスト」で確認できる。




図1 全体構成


図2 「理科室」の画面


3-2 背景との関わり

 本教材では、学習者の興味・関心を高めるために、自由に条件設定や意志決定ができるというシミュレーションのメリットを活かして、説明は極力少なくし、なるべく自由ななかでも正解に導くような工夫をした。例えば、「理科室」の器具の選択であるが、教科書に載っている組み合わせでなくても支障がない場合は実験を進めることができる。一方、絶対にありえない組み合わせは接続できないようにした。また、ヘルプボタンを活用することによって見たい人だけが見られるにし、学習者の意思に任せた学習ができるようにした。学習目標である4種類の異なる気体の発生をとおして、何と何を組み合わせれば何が発生するのかや気体の性質について自分で気付かせることを目指した。ただおもしろいだけではなく、本当に学習できたかどうかを確認するために「確認テスト」を作成した。


4 開発

 開発には、Oracle社のOracle Media Objectsを用いた。実験器具などのビットマップ作成にはペイント・イットを用いた。

 教材を設計するにあたって、始めに図1の全体構成図を作成し、それにそって描かれた紙上のスケッチに基づいてプロトタイプを作成した。

 Oracle Media Objectsについては、全く予備知識がなかったため、プログラム経験者にご協力いただき、その都度自分たちも学習しながらの開発となった。シミュレーション教材ということでプログラムが複雑になり、難解な部分は、自分たちの考えた構成に基づいて協力者がプログラムを組んで下さり、それを教わりながら教材を開発した。8つの実験器具と15の薬品で始まる実験が進むにつれて変化する器具を表示するために、合計71個のビットマップが図2には含まれている。

 シミュレーションの実現方法の詳細については、論文に記す。


5 形成的評価と改善


 中学校1年生の男子3名に協力を求め、形成的評価を行った。形成的評価には、本教材、事前・事後テスト、事前・事後アンケートが用いられた。事前テストと事後テストは同じ内容のものを使用した。 事前アンケートは、理科に対する興味・関心について4段階評価で回答するものを使用した。事後アンケートは、理科に対する興味・関心、実際の実験との比較、本教材の特色であるシミュレーションについて、4段階評価と自由記述で回答するものを使用した。形成的評価に基づいて、本教材、テスト、アンケートともに改良を加え、シミュレーションの効果についての実証研究の準備がひととおり整った。


6 おわりに


 本来シミュレーションは、なるべく制約のない状態で行われるべきであって、本教材も、できるだけ自由ななかで正解に導けるような設計をしてきたわけであるが、我々の調査不足から、使用できる薬品を2種類までに限定するなど制限せざるを得ない部分が出てしまった。また、設計したものの開発に至らなかった箇所もあり、今後の課題にしたい。


参考文献


文部省(1989)『中学校指導書理科編』学校図書

坂元昂(1987)『コンピュータと教育ー現場でマイコンを活かす』マグロウヒルブック