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ARCS動機づけモデルとガニェの9教授事象に基づくCAI教材の改良
〜「超わかりやすい!源氏物語(若紫・出会い)」'96年版と'98年版の形成的評価〜



Improvement of CAI courseware using the ARCS motivation model and 9 events of instruction:
Formative Evaluation of '96 and '98 versions of "Very Easy GENJIMONOGATARI"


メインテーマ:学びを支援するツールとしてのマルチメディア

指導教員:鈴木克明先生

9551115   荻原和子




1 研究の背景

1-1 はじめに


 どのようにすれば「面白い」、「分かりやすい」教材が作れるだろうか。これが本研究に取り組んだ動機であった。

 本研究の出発点は1996年に開発したCAI教材「超わかりやすい!源氏物語〜若紫・出会い〜」にさかのぼる。その後、学習意欲を高めるための枠組みであるARCSモデル(Keller&Suzuki,1988)や、学習を効果的にするための働きかけである9つの教授事象(ガニェ,1982)を知り、より「面白い」「分かりやすい」教材が作れるのではないかと考えた。ARCS動機づけモデルは、学習意欲を高める手立てを4つの側面からチェックしてそれに応じた作戦を立てる枠組みであり、その4つの側面とは、注意(Attention)、関連(Relevance)、自信(Confidence)、満足感(Satisfaction)である。ガニェは授業や教材を構成する指導過程を「学びを支援するための外側からの働きかけ(外的条件)」とし、理論と実践の両面から学習を支援する授業構成を9種類に分類した。これが9つの教授事象である。

 この2つの理論に沿った形で「超わかりやすい!源氏物語〜若紫・出会い〜」の再開発を行い、より魅力的で効果的な教材を目指した。


1-2 形成的評価とは

 形成的評価とは、教材の悪い点を見つけるために行う評価のことであり、教材の形を作っていく(つまり形成していく)過程の一部である。形成的評価は教材の作成者が行うもので、その目的は教材の効果を確かめることと改善の為の資料を集めることにある。より良い教材を作っていく上で、形成的評価はかかせない重要な要素である。本研究は、「超わかりやすい!源氏物語〜若紫・出会い〜」を「面白い」「分かりやすい」の観点から問題点を拾い上げて改善していったものであり形成的評価を中心とした研究であった。


1-3 1996年版教材

 1996年、「教育学実験実習」において著者が試行錯誤し「面白く分かりやすい」を目指して制作したCAI教材である。教材は主に以下の3つの部分から構成されていた。

 説明編:源氏物語について説明する
 本編:若紫・出会いをまんがと古文で読む
 テスト:源氏物語に関する知識と読解力を問う


2 研究の課題


 本研究の課題は次の3つであった。

(1)ARCS動機づけモデルチェックリスト・ガニェの9教授事象チェックリストの作成
(2)1996年版が「魅力的」で「効果的」な教材となっているかどうかについての評価と改良
(つまり'98年版の開発) (3)1998年版が「魅力的」で「効果的」な教材となっているかどうかについての評価と改良


3 形成的評価のための準備

 ARCSモデル・9教授事象に沿って教材を改良していくにあたり、何らかの目安があれば改善点が具体的になる。そこで、教材をより「魅力的」「効果的」なものに改良するための基準ともなるべき<チェックリスト>を作成した。

 '96年版、'98年版教材の形成的評価を実施するにあたって必要な実験道具(チェックリスト、事前・事後アンケート、事前・事後テスト、補助教材古文プリント)が道具として使えるかどうかを確認するための評価実験を行った。実験の結果に基づき、これらに改良を加えた。


4 実験1 '96年版の形成的評価

 '96版教材の「面白さ」と「分かりやすさ」の側面における改善点を見つけるための実験を行った。

 東北学院大学の「教育工学」受講生10名が参加者であった。実験参加者に事前アンケート→事前テスト→'96年版による学習→事後テスト→事後アンケートと進めてもらった。次にもう一度'96年版教材を振り返りながらARCSモデル・9教授事象チェックリストに記入してもらった。

 事前・事後アンケートの結果から、'96年版教材ではまんがや易しい言葉を用いることで古典の内容に興味を持ってもらうことができた、という事が分かった。しかし、古文に対する苦手意識を克服することはできなかったと言える。

 事前・事後テストの比較では、平均正解率が51.43%(SD=13.24)から79.05%(SD=5.59)に上がった。'96年版教材によって被験者全員の点数が上昇し、'96年版教材はある程度学習効果のある教材であることが分かった。しかし、事後テストにおいて合格ラインに達しなかった者が2名いた。'96年版教材になんらかの問題点があるということを意味した。

 ARCSモデルチェックリストの結果をふまえ、教材の「魅力」における改善点を次の6つに決めた。

・カラーにする(A-1)
・音を入れる(A-1)
・まんがを古文に対応できるように書き加える  (R-1)
・教材をやることが何に役立つのかを明確化する (R-2)
・古文をCAI内に取り入れる(R-3)
・練習の機会を増やす(C-2)

 9教授事象チェックリストの結果をふまえ、教材の「効果」における改善点を次の6つとした。

・単元ごとの学習目標を明記する(事象2)
・事前テストの解答を教材に盛り込む(事象4)
・古文を教材内に取り入れ、古文読解の効果が上がるような工夫をする(事象5)
・練習のフィードバックを強化する(事象7)
・練習問題は間違った箇所が分かり、間違った問題に再チャレンジできるようにする(事象7)
・教材で学んだことが何に役立つかを言及する(事象9)
 実験1で得られた結果をもとに1996年版を改良したものが1998年版教材のβ版となった。



図1.'98年版の表紙画面  


5 実験2 '98年版の形成的評価

 '98版教材の「面白さ」と「分かりやすさ」の側面における改善点を見つけるための実験を実験1と同様の手順で行った。

 事前・事後アンケートの結果から、教材の目的「ちょっとでも古典に興味を持ってもらおう」は達成することができたことが分かった。

 事前・事後テストの比較では、平均正解率は49.52%(SD=11.49)から86.19%(SD=13.18)に上がった。'98年版教材によって被験者全員の点数が上昇したが、合格ラインに達しなかった者が2名いた。チェックリストの結果をふまえて、教材の「魅力」や「効果」における改善を行った。改善の詳細は論文に記す。


6 おわりに


 今回、形成的評価を重ねることで教材を改良することができた。形成的評価は重要なプロセスであり踏んでいくべきものである。また、ARCSモデルと9教授事象を使用し「魅力」「効果」の側面から焦点化して改善点を探ることができたことは、より良い教材を目指す上で有効であった。


参考文献


Keller, J.M., & Suzuki, K.(1988)Use of the ARCS motivation model in coursware design. In Jonassen, D.H.(Ed.), Instructional designs for microcomputer courseware. Hillsdale, N.J.: Lawrence Erlbaum.

R・M・ガニェ著、金子・平野訳(1982)「学習の条件(第三版)」学芸図書