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新人アルバイト向け「トレーニングフォーマット」の研究
  〜あるファーストフード店のOJTを事例として〜

A study on "Training format" of new parttime employees
~A case study of OJT in a fastfood restaurant~



学びを支援するツールとしてのマルチメディア

9551140 志賀光訓
鈴木 克明先生指導

1.研究の背景と課題

 学校教育と異なり,職場や店舗における教育は主にOJT(On the Job Trainingの略)が中心である。しかし,OJTにより能力を育成するには,何らかのガイドラインが必要である。(寺沢、1989)そのために開発されたのがトレーニングフォーマットであり,これにより明確な目標を表わすと同時にトレーニングを受ける側のやる気にも影響が出てくる。仮説としてそのトレーニングフォーマットも現場に合わせより使いやすく,機能的なものへ進化し続けていると考えられる。しかし本当にトレーニングフォーマットの改訂は現場のニーズに答えたものなのか,また機能的に優れたものなのだろうか。

 トレーニングフォーマットを作成する側は現場を離れた人間である。特に大型の企業やチェーン店に於てはその傾向が強い。時には現場のニーズや機能性を無視して理想に走りがちになる事もあるため、事例研究として現場の視点からトレーニングフォーマットの内容を分析していく必要があると考える。

 あるファーストフード店において行われたトレーニングフォーマットの改訂により、育成される人材の質がどのように変わったかを店舗において働く新人アルバイトを追跡調査して、改訂は成功したかを比較した。更には、新カリキュラムの問題点や効果について検討した。




2.新旧カリキュラムの概要

 改訂前の旧カリキュラムと,改訂後の新カリキュラムは、共にOJTを行いながら使用するものである。旧カリキュラムは男子(ハンバーガーやポテトの製造や仕込み清掃作業)と女子(カウンターにおける販売やフロアー作業),新カリキュラムはプロダクト(ハンバーガーやポテトの製造)「P」とセールス(カウンターにおける販売やフロアー作業)「S」,及びアシスト(仕込みや清掃作業)「A」に分かれているが,男子のみの被験者なので主にプロダクト,アシスト中心にトレーニングを行った。

 新カリキュラムにはマニュアルとしての機能に加え,チェック項目もついているので,被験者は,マニュアルの内容が出来ているかどうか確認しながらトレーニングを進めていける。チェック項目は,トレーニング(初めて教わる段階),アイドルタイム(暇な時間),ピークタイム(忙しい時間)と作業をスピーディーかつ正確に行えるかに重点が置かれている。またトラッキングシートは学習履歴を記録しておく専用シートになっている。

 旧カリキュラムはランク別のトレーニングになっており,プロダクトとアシストを同時進行してバランスとれたアルバイトを教育して行くカリキュラム。マニュアルとしての機能はなくトレーニングのガイドラインとして活用する。ランクが上がるほど内容は濃く,難しくなって行くのが特徴である。

 旧カリキュラムでは、ランク毎にチェックリストが用意されている。1ランクアップ毎に,Yes、No形式のチェックテストを受け80点以上の点数を取り,ランクアップ審査会において承認されるとランクアップすることが出来る。ランクアップ審査会では,本人の能力と共に資質も話し合ってランクアップの基準とする。

 一方の改訂後の新カリキュラムでは、各ランク共通のテキスト形式になっており,プロダクト(P)とセールス(S),及びアシスト(A)の3コースがある。チェックリストと共にマニュアルとしての機能もあるため,メイトはあらかじめ予習することも容易である。各ランク共通であるため反復学習することが出来るが,ランクが上がる毎に内容が難しくなるわけではなく,同じ内容をいかにスピーディーかつ正確に行えるかに重点が置かれている。

 新カリキュラムでは、チェックテストの代わりにトラッキングシートが用いられている。新カリキュラムの各項目の学習履歴の一覧になっており、Tランクが各エリアの1ステーションのピークをクリアできればCランクになれる。Cランクは各エリアの1ブロックのピークをクリアできればBランク、また1エリア内全項目のピークチェックがOKであれば、Aランクになることが出来る。この基準においてランクアップ審査会は行われずに能力のみが尊重されている。

 旧カリキュラムと新カリキュラムの違いを表1に示す。

  表1.新旧カリキュラムの比較
 旧カリ 新カリ
マニュアル機能  ×  ◯
内容のレベルアップ  ◯  ×
明確な基準  ◯  ×
VTR等の使用  ◯  ×
プロダクトアシストの分化  ×  ◯
Aまでの目標到達時間 200時間 200時間
ランクアップの時のテスト  ◯  ×
ランクアップ審査会  ◯  ×


3.研究の方法

3ー1 研究協力者

 Lファーストフード店において働いている男子新人アルバイト2人は新カリキュラムの沿ってトレーニングを進め,1人は旧カリキュラムに沿って,50時間分進めた。各々のデータを使用し,各人にはシフトに入る度に記録をつけてもらいランクがAになるまでに記録をとり続けた。

 また,旧カリキュラムにおいて,Aランクに到達した3人の累計時間のデータを使用した。


3ー2 研究の手順

 新人アルバイト採用時にオリエンテーションとしてトレーニングスケジュールについて説明はされていた。その後すぐ研究対象とした人に協力を願い,シフト毎の記録をとってもらった。Aランクにランクアップ後に新カリキュラム対象者には,旧カリキュラムで使用した育成チェックリストによりテストを受けてもらった。

 Aランクにランクアップするまでは、毎回新カリキュラムを厨房に持参しトレーニングを受けた。トレーニングはOJT形式で,項目毎に実践しチェックしていった。Tランクのうちはトレーナーがマンツーマンで教えて行くが,Cランク以上になると本人の積極性という部分も出てくるがトレーナーや社員がアルバイトにトレーニングを促す形で進めていった。被験者を特別扱いせず他のアルバイトと同じようにトレーニングを進めた。

 毎回トレーニングを受け、シフト終了後にトラッキングシートのトレーニングを受けた箇所に日付を記入していった。これによりトレーナーがトレーニングの進行状況を一目で確認できる他、本人の意識付けという面においても重要なため、確実な記入を行わせた。

 旧システムと新システムを同時進行で行うことは出来ないため,純粋な比較は難しい。新システムにおいてAランクにランクアップするときに旧システムのチェックテストを行えば旧システムのAと新システムのAを比較することが出来ると考え、ランクアップの時にテストを受けてもらった。


4.研究の結果

 O君は50時間の時点で新カリキュラムに変更になり断念した。しかし,トレーニングの記録はないが,Aランクに到達したアルバイトの累計時間は, 594時間,683時間,1395時間という記録が残っている。

 N君はAランクにランクアップするまでに350時間、K君は423時間かかり、目標の200時間を大きく上回った。この2人の記録から見ると、Tランクの頃はマンツーマンでトレーニングを受けており、毎回チェック項目に記録されているが、ランクが上がったり他の新人が入ってきたりすると、OJTとして教えてはもらうが,それを形としてチェック項目に残さないことがあった。トレーニングの記録が無いために、実力があってもランクアップが遅くなるということが、考えられる。

 新カリキュラムでAランクになったN君とK君に、旧カリキュラムのテストを受けてもらったが, 点数はN君は52点,K君は44点と合格基準の80点には及ばなかった。しかしこれは旧カリキュラムのAランクと新カリキュラムのAランクでは、重要視されている能力に違いがあるからである。旧カリキュラムのAランクの方が管理能力やトレーナー力においてもより高度な技能を要求されていた。


5.考察

 Aランクにランクアップしたアルバイトの新カリキュラムに対する感想では「チェック項目が多い」「反復するだけなので飽きてくる」「忙しいのに面倒」といったものがあり一つにまとめると”使いにくい”ということになる。実際にOJTを行いながら全項目をチェックするのは手間がかかるが,OFF−JT(Off the Job Training)として実施するのでは、新カリキュラム本来の使い方に反してしまう。 比較テストでは旧Aランクよりも総合面では劣るという結果が出たが,これは新カリキュラムが総合育成を目的としていないからであろう。しかし,スペシャリストの育成という点においても,旧カリキュラムでは”オーダー後何秒で何が出来る”等の明確な指示があったが、新カリキュラムにおいては漠然とアイドルタイム,ピークタイムとあるだけで明確な基準がない。また作業上重要と思われる項目も無くなっているためトレーナーの知識が必要となる場面も多く,完全なマニュアルとしては機能していないようにも思われる。

 仮説では新カリキュラムは旧カリキュラムよりも優れたものであり、育成されるアルバイトも旧カリキュラムのAランクより新カリキュラムのAランクの方がレベルが高いものとした。分析の結果同じAランクを総合的な面で比較すると旧カリキュラムの方がレベルは高いが,オペレーションの面から比較すると、より正確な知識を新人の頃から身に付けられるという点では新カリキュラムの方が本人のやる気に応えやすくなっていた。

 また,今回は旧カリキュラムのテストを共通に使用し判定したが,システムの趣旨が新と旧では異なっているため,このテストだけではカリキュラムの比較しきれない部分も多いように感じた。

 このファーストフード店において,Aランクは一人前という基準になっているが,カリキュラムの改訂はこの一人前を育成するに当たり,合理的かつ現場のニーズに合ったものでなければならない。今回の改訂は正確なマニュアルを分かりやすくするという現場のニーズには応えているものの,実際にそれを使用するとなると,不便な面も見られる。

 店舗運営や組織運営において,一人前の基準を下げてまで一人前の人員を増やす必要があるかどうかということに疑問を感じたが,カリキュラムを店舗毎で改訂するのは困難であり,組織の流れに逆らうことにもなる。今後の課題としてはカリキュラムの使用の仕方を位置付けるガイドラインを作成することが挙げられる。


参考文献

寺沢広忠(1989)「OJTの実際」日経文庫